はじめに
キッチン用品売り場へ行くと、実にさまざまな「まな板」が並んでいます。
軽くて扱いやすいプラスチック製、スタイリッシュな合成樹脂製、抗菌仕様をうたうものまで、その種類は豊富です。
そんな中で、料理好きな人たちが最終的にたどり着く「約束の地」があります。
それが、「木のまな板」です。
実は、市販のものを買うのも素敵ですが、木工家である爺としては「自分好みのサイズと樹種で自作する」という選択肢もぜひおすすめしたいところです。
まずは、誰でも手軽にできる木のまな板の作り方からご紹介します。
木工家が教える「マイまな板」の作り方
お気に入りのサイズや厚みのまな板が売っていないなら、作ってしまいましょう。
驚くほど簡単に、「一生モノの相棒」が手に入ります。

「まな板」におすすめの樹種
① 材料(おすすめの樹種)
「まな板」に向いているのは、適度な柔らかさと高い復元力(傷の治りやすさ)、そして抗菌性を持つ木材です。
・いちょう(銀杏): 最高峰と言われています。油分を含み水はけが良く、包丁の刃への優しさはダントツです。
・ひのき(桧): 優れた抗菌・防カビ作用があり、刃当たりも良好。香りの良さも魅力です。
・あすなろ・ひば: プロの料理人も好む、最高級の刃当たりを持つ隠れた名木。ひのき(檜)以上に抗菌・防腐成分(ヒノキチオール)を含んでいます。
・やなぎ :弾力性と復元力に優れていて、刃こぼれを防ぐだけでなく、水切れが良
く抗菌力も備えています。傷がつきにくく高級まな板材です。
・きり(桐):とても軽くて扱いやすく、女性や年配の方でも手首や腕に負担がかからず水切れが非常に良いです。傷がつきやすいです。
② 製作方法
(今回はサラっとの解説とし、出来るだけ早い目に具体的な「板」の作り方」という記事をアップロードしたいと思います。どーも順番が後先ですね。)
1. 木取り(サイズ決め): 自分のキッチンのシンクや調理スペースに合わせて、使いやすいサイズ・形を決定しましょう。
2. 裁断: ノコギリなどで墨線に沿って整形します。
3. 面取り(重要): 角が尖ったままだと、持った時に痛く、ぶつけた時に欠けやすくなります。紙やすりを木切れに巻き付け、すべての角と辺を45度の角度で軽く削り、丸みを持たせます。
4. 仕上げ:鉋がけの実力がある方は、鉋一発仕上げで構いません。 自信の無い方は、サンドペーパー仕上げになります。最終的に全体を目の細かい紙やすりで、木目に沿って滑らかになるまで磨き上げます。よく粉を払い、水洗いして乾燥させれば完成です!
※ 一般的な木工品と違い、ニスやオイルなどの塗装は一切行わず「無塗装(素地)」で仕上げるのが「まな板」の基本です。
※ 紙やすりの使い方は過去記事
【仕上がりの極意は「磨き」にあり 手作業でのサンドペーパーがけの極意】
【仕上がりの極意は「磨き」にあり プロが教える電動サンダーの使い方】
などを参照ください。
③ 自作する際の注意事項(重要)
• 市販の合板(ベニヤ)や集成材は絶対に使わないこと: 複数の木を接着剤で固めた板は、水洗いを繰り返すうちに接着面から剥がれ、接着剤の成分が食材に混入する恐れがあり大変危険です。
最初は必ず「無垢材(単材)」を使用してください。
• 防腐剤・防虫剤処理された木材は避ける: 建築資材として売られている木材の中には、薬品処理されているものがあります。国産の天然無垢材を選びましょう。
こうして自分で作ったまな板、あるいは選び抜いた「木のまな板」をキッチンに迎え入れると、毎日の料理風景は一変します。
実は私も、以前はプラスチック製の「まな板」を愛用していました。
軽いし、ガシガシ洗えるし、食洗機にも放り込める。
正直なところ、「木のまな板は質感が良いけれど、手入れが面倒だろうな」とタカをくくっていたのです。
ところがある日、私が敬意を抱いている料理人にこう言われました。
「いい包丁を買う前に、『いいまな板』を使ったほうがいいよ。」
その時は、正直ピンときませんでした。
しかし、半信半疑で「木のまな板」を使い始め暫くで、私はその言葉の真意を、身をもって理解することになります。
包丁の切れ味が落ちなくなった

「木のまな板例」

「プラスティック製まな板例」
木の「まな板」に替えて最初に驚いたのは、包丁の切れ味がとにかく長持ちすることでした。
木工のプロとして解説すると、木材には「木繊維」というミクロのクッションが詰まっています。
プラスチックのような硬い物質に刃を叩きつけると刃先が潰れて(丸まって)しまいますが、木は刃を優しく迎え入れてくれるため、刃先が傷みにくいのです。
その結果、包丁を研ぐ頻度が劇的に減ります。
以前は「なんだかトマトが潰れるな……」と感じることがあったのですが、「まな板」を木に替えてからは、鋭い切れ味が驚くほど持続しています。
せっかくお気に入りの包丁を使うなら、「まな板」にこだわらない手はありません。
車に例えるなら、レーシングタイヤを履いているのに、走っている道路が砂利道だったらもったいないですよね。
「木のまな板」は、包丁にとっての「美しく整備されたアスファルト」なのです。
鑿(のみ)や鉋(かんな)を使う木工作業台が、ほぼ例外なく木製であるのも納得できますね。
包丁が喜ぶ、あの「トントン」という音
熟練大工さんの魅力のひとつに「リズミカルな音」があります。
もちろん、熟練の手技(てわざ)からなる仕事の正確さや美しさが一番ではあります。
ただ、爺の経験からですが、「名工」とか「達人」と言われる職人さんは、例外無く、動作に無駄がなく、「心地よいリズム」を持って仕事をされます。
ことほど左様に「リズムや音」は大切なものだと爺は思うのです。
さて、「木のまな板」の最大の魅力は、包丁の刃先を受け止める圧倒的な柔らかさにあります。
食材を切るたびに響く、「トントン、サクッサクッ」という音。
これは驚くほど心地よいものです。
プラスチック製のまな板にある「カツカツ」とした硬い反発感がありません。
木は、刃先が当たった瞬間にほんの少しだけ沈み込み、衝撃を優しく吸収してくれます。
その差はまるで、高級ホテルのベッドと、学生時代の薄いせんべい布団くらい違います。
包丁が「あぁ、仕事がしやすいぜ。」と喜んでいるような気さえしてきます。
……もちろん包丁は喋ったりしませんが、それくらいに手元に伝わる感覚が優しいのです。
ぜひ、実感していただきたいものであります。
「手入れが面倒」は誤解? 実は一番ラクだった
「木のまな板」について回るのが、「手入れが大変そう」「カビが生えそう」という不安の声です。過去の私も全く同じ偏見を持っていました。
しかし、実際に日常使いしてみると、意外なほどシンプルでした。
• 使う前に、軽く水で濡らす。
• 使い終わったら、洗剤で洗う。
• サッと拭いて立てて乾かす。
基本はこれだけです。
特別な技術も資格も必要ありません。
木工職人の私ですが、家では何の裏技も使っていません。
むしろ、プラスティック製まな板によく見られる深い包丁傷や黒ずみが目立ちにくく、長く清潔感を保てる印象があります。
「手間の差」なんて、慣れてしまえば毎日のルーティンの中でわずか数十秒の差しかありません。
(爺は毎日調理しているわけではありませんがね。)
「木工家直伝」木のまな板を10年、20年と愛用するコツ
「一生物」と言われる「木のまな板」ですが、長持ちさせるコツは拍子抜けするほどシンプルです。これだけ覚えておけば、黒ずみとは無縁の生活が送れます。
① 使う前に必ず「水で濡らす」
表面に水分を含ませることで、木に「水の膜」ができます。これにより、食材の脂や色、ニオイが染み込みにくくなります。
② 洗ったらすぐに乾燥
濡れたまま放置すると黒ずみやカビの原因になります。
風通しの良い場所で、木目を垂直にして立てて乾かしましょう。
③ 表面が傷んできたら「削る」
これこそが、木のまな板が持つ最大の強みであり、プラスチック製には絶対に真似できない芸当です。
表面が傷んできたら、紙やすりで軽く削るだけで、新品のような美しい木肌が現れます。プラスチックなら買い替えですが、木は何度でも生まれ変われます。
無垢材を一皮むけば、そこには新品のように美しい木肌が再び現れます。
プラスチックでしたら寿命ですが、無垢の木は何度でも生まれ変われるのです。
その変貌ぶりは、まるで「温泉帰りのおじさんくらい」です。
再掲になりますが…
※ 紙やすりの使い方は過去記事
【仕上がりの極意は「磨き」にあり 手作業でのサンドペーパーがけの極意】
【仕上がりの極意は「磨き」にあり プロが教える電動サンダーの使い方】
などを参照ください。
④ 漂白剤に頼りすぎない
熱湯消毒や日光乾燥で充分な場合が多く、木の風合いを長く保てます。
こうした手入れを続ければ、10年どころか20年近く使われている木のまな板も珍しくありません。
道具が変わると、暮らしの質が上がる
不思議なもので、人はお気に入りの道具を手にすると、使いたくなります。
新しい靴を履くと出かけたくなるように。
新しいカメラを買うと写真を撮りたくなるように。木のまな板も、全く同じ魔法を持っています。
野菜を切る音。
水に濡れた瞬間にふわりと香る、木の香り。
使い込むほどに深まる風合い。
それらが、毎日の料理を少し特別な時間に変えてくれます。
もちろん、木のまな板を使ったからといって、突然プロの料理人になれるわけではありません。
昨日までの「ほうれん草のおひたし」が「フレンチのフルコース」になることもありません。
しかし、「料理するのが楽しい。」と感じる時間は確実に増えました。
暮らしの質を上げるものは、高価な家電や特別な設備だけではありません。
毎日手に取る道具こそ、暮らしを豊かに耕してくれるのです。
木工の道具にも通じるものがありますね。
まとめ:小さいようでも、大きな一歩
料理好きの人が最後に「木のまな板」に戻ってくる理由は、とてもシンプルです。
• 包丁に優しい(切れ味が長持ちする)
• 切る感触と音が気持ちいい
• 意外とお手入れが簡単(「濡らす・洗う・乾かす」の三つだけ)
• 削りなおせば何度でも新品同様に生まれ変わり長く使える
• 料理の時間が楽しくなる
ぜひ一度、「木のまな板」を試してみてください。
最初に感じるのはきっと、「意外と使いやすいな」という安心感でしょう。
そして数ヶ月後には、「なんでもっと早く使わなかったんだろう。」と思っているかもしれません。
料理は毎日のこと。
だからこそ、毎日触れる道具に少しだけこだわってみる。
それが暮らしを豊かさにする、小さようでも大きな一歩なのかもしれません。
Let’s try!
本日の1本:「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」 012
今回のテーマである「まな板」からは、幾つもの映画を思い浮かべました。
洋画だけではなく邦画でも紹介したいタイトルがあったのですが、偶然、最近改めて鑑賞の機会があったので、記憶にも新しく本タイトルにしました。
粗筋ですが、有名レストランで総料理長を務めるカールは、オーナーや自分の料理を酷評する評論家とケンカして店を辞めてしまいます。
そこで、キッチンカー(フードトラック)の移動販売を始めることになり、仲間の協力を得ながらアメリカ横断の旅をすることになる物語です。
結構なビッグネームの俳優も出演しています。
単に「まな板」が出てくるだけではなく、心が暖かくなる映画です。
ぜひご覧ください。
原 題: Chef
邦 題 :シェフ 三ツ星フードトラック始めました
配 給 :オープン・ロード・フィルムズ
公 開 :アメリカ:2014年3月7日 日本:2015年2月28日
主な俳優 :ジョン・ファヴロー、ソフィア・ベルガラ、ジョン・レグイザモ、
スカーレット・ヨハンソン、オリヴァー・プラット、
ダスティン・ホフマン、ロバート・ダウニー・Jr


コメント